最近、当院・非常勤先での矯正治療を通して乳歯の抜歯について考える機会が多くありました。
・抜ける時期より早期にかなりの本数の乳歯を失っておられた小学生の患者さん。
・乳歯は抜けたのに永久歯がなかなか生えない小学生の患者さん。
・外傷で乳歯を抜歯する可能性がある幼児の患者さん。
・子どもの時に乳歯を抜歯したものの、後に続く永久歯がおかしな位置に生えてきてしまった成人患者さん。
乳歯の抜歯ひとつをとっても、患者さん毎に様々な背景があり、それぞれの症状があります。
「乳歯はどうせ永久歯に生え変わるのだから、早く抜いたっていいじゃないか」と思われる方もおられるかもしれません。
しかし、永久歯への生え変わりに適した時期まで乳歯がきちんと残っている事には大切な意味があります。
・しっかりと食べ物をかみ砕いて消化すること
・その後に生えてくる永久歯のためにスペースを維持すること
この乳歯の役割を可能な限り最後まで果たさせることが、将来的なお口の健康につながるのです。
歯の萌出(生えること)交換(永久歯に生え変わること)には個人差がかなりあり、時期・順番は人によって違いますが、大体の流れは以下の通りです。
①乳歯の萌出は、生後8か月頃にまず下の前歯から始まります。
②その後、徐々に他の乳歯が萌出し始め、2歳半ごろに奥歯が萌出して上下で合計20本の乳歯が生え揃います。
③5~6歳ごろに下の前歯の乳歯から揺れ始めます(生え変わりの開始)。
④大体小学校の低学年の頃に前歯の永久歯への生え変わりがおき、ほぼ同時期に乳歯列のさらに奥から第一大臼歯(6歳臼歯)が萌出します。
⑤その後小学3年生~6年生にかけて糸切り歯から奥歯の生え変わりが起こります。
⑥中学校に入るころに最後方に第二大臼歯が生えてきて永久歯列が完成します。
(親知らずは大体20歳頃に萌出すると言われていますが、元々ない人、埋もれて生えてこない人もいます)
それぞれの乳歯にとって適切ではない時に抜けてしまうと、食べ物をしっかり噛めなくなったり、隣の歯が倒れてきて後に続く歯が生えるスペースがなくなって歯並びが悪くなったりする可能性があります。
(*)歯というのは自然に前方に傾いていく性質を持っています。小学校低学年の時には前歯に隙間のあるお子さんでも後方の歯が前に向かって生えてくることで隙間が閉じたり、歯並びが綺麗だった人が20歳ごろに親知らずが生えてきて前歯がガタガタになったりするのはそのためと考えられます。
ただし、患者さんの状態によっては抜歯が避けられない場合もあります。
その場合は保隙(ほげき)装置という永久歯が生えるスペースを維持する装置を装着することで、将来的な咬合不全を防ぐことができる場合があります。
乳歯と言っても大切な歯には変わりありませんし、その後のお口の健康に大きく影響する可能性があります。
乳歯でも永久歯でも、お口の中に症状がある場合は、担当の歯科医師としっかり相談して治療方針を決めていきましょう。
松原歌奈子